新たな挑戦の始まり

 私がシーズン前、現役引退を表明して8カ月がたった。この間の、まるで嵐の中にいるようなめまぐるしい日々。これまで当たり前のようにやってこられたこと、それがいつもの、手慣れたものであっても、とても奇妙に感じられ、なかなか思い通りにはならなかった。

 このシーズンを、それまでの19年間と違ったものにしたくはなかったのだが、開幕からほどなくして、それは難しそうだと思い知った。ずっとそこにあると思っていたもの――。勝利への強烈な執着、猛練習、チームの団結、遠征も、好不調の波も、確かにあったのだが、やはり特別な1年と言うほかなかった。

 なかでも、特に大きく変わったことは、どこで試合をしてもまるでニューヨークでプレーしているように感じられたことだ。ヤンキースファンは、いつだって最高だった。ただ彼らの熱狂的な声援は、驚くに値しない。長年、そうであってくれたからだ。ニューヨークではない球場での歓迎こそが、とても大きな変化だった。国中の野球ファンの、私への厚遇は生涯忘れられないものとなった。〝敵地〟と思っていた球場が、温かい声援や握手をもらえ、敬意を示してくれる場所に変貌していたのだ。野球は家族の一員、これまでもそう考えてはいたが、紛れもない現実と確信できたいま、それはとても、心地よいものでもあった。

 私はあまり、軽口を叩くことはなかった。若いころ、答える必要のないことまで聞いてくる記者にさらされる、どこよりも手厳しいヤンキースならではの取材環境の洗礼を浴びたためだ。そうしてプレーの障害となるものに気づき、避けるすべを覚えたことが、ニューヨークでの成功に結びついたと断言できる。

 もちろんファンの皆さんが「ノーコメント」とか「さあね」といった以上の反応を期待していることはわかっているつもりだ。ただ選手の言葉や意見、詳しく説明したいこと、など本音から言ったはずのことがゆがめられてしまうことを避けたいから、ついそうした短い返答になってもしまいがちだ。本拠地ヤンキースタジアムでの私にとって現役最後の試合でサヨナラヒットを打った後、感極まって感情をあらわにする姿を見た人も多いだろう。私はロボットじゃないんだ。時には近寄りがたいように見える、他のアスリートも決してそうではない。誰もが、感情を持っている。私たちは、自分の発言や考えを自分が意図した通りに伝えたいだけなんだ。だから私は、これまでなかったような展望を持っている。

 私はいま、アスリートが本音のところにある考えや感情をありのままに発信できる場所を作ろうとしている。第三者のフィルターを介することなく、ファンと直接つながることのできる手段が必要と考えてのことだ。

 私たちの心の内をしっかりと伝えることのできる環境作りを目指し、他のアスリート、編集者、プロデューサーたちと共に動いている。『ザ・プレーヤーズ・トリビューン(The Players’ Tribune / TPT)』と名付けた。ここでは、アスリートが自らの言葉で発する“ストーリー”や、今まで語られることのなかった真実を紹介できるだろう。

 私はこの『ザ・プレーヤーズ・トリビューン』を通じて、アスリートや著名人の情報の伝え方を、今までとは劇的に変えていく。そしてファンたちが愛するスポーツを、より身近なものにしたい。

デレク・ジーター