Dear Brooklyn and Toronto

Nathaniel S. Butler / Getty Images

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 僕にとってNBAでの5シーズン目が、いよいよ始まりました。

 今日は、今シーズンからお世話になるブルックリン、そして昨シーズンまで在籍したトロント、この2つの街とチームについて想いを伝えられたらと思います。

 まずはマンハッタンからイースト川を渡った位置にある街・ブルックリン。

 僕はこの街と何か不思議な縁があると感じています。

 というのも、9年前にバスケットボールの本場アメリカにやってきた僕は、節目節目でこの街にいたからです。秋景色になり少し肌寒くなったこの街並みを歩くと、特別な思い出がよみがえってきます。

5シーズンに渡って一度も開幕ロスターが確定していない“崖っぷち”の状態からのスタート

渡邊雄太

 今から4年前。ジョージワシントン大学を卒業した僕は、NBAのドラフトで指名されることを目指して様々なチームを渡り歩き、ワークアウトをしていた時期がありました。実はその最初の場所がここブルックリンだったのです。

 その後、ワシントン・ウィザーズやアトランタ・ホークスなど7つのチームでワークアウトを続けましたが、ブルックリン・ネッツでのプレーが一番良かったですし、実際に声をかけていただいてチームの一員となり2018年サマーリーグに参加することになりました。これが僕のNBAでのキャリアのスタートでした。

 下の2枚の写真を見たら、当時の僕は本当にまだまだ線が細いですよね(苦笑)。

Left: ©️Yasushi Kobayashi | Right: Mitchell Layton / Getty Images

 そして最近ふと思い出したことがあります。そのサマーリーグ以前から、僕はこの街と縁がありました。

 それは2015年3月のことです。僕は当時大学1年生で、アトランティック10カンファレンス・トーナメントに出場することになりました。その年の大会会場が、実はここネッツの本拠地バークレイズ・センターだったのです。つまり、僕が初めてNBAのコートに立った、その舞台がまさにこの場所だったのです。その翌年も同じトーナメントに出場して、バークレイズ・センターでプレーしました。負ければ終わりのガチンコ勝負。優勝したチームだけがNCAAトーナメントに進出できる大会で2年連続で敗退し、悔しい想いをしたことを今でも覚えています。

David Dow / Getty Images

 そして今週、僕はブルックリン・ネッツの一員として開幕ロスター入りを果たし、再びこの街でプレーすることが決まりました。

 8月下旬にはチームと既に契約を結んではいたものの、でもそれは本契約ではなくあくまでキャンプ契約。選手が次々とカットされて行き、開幕まで生き残れる保証はどこにもない立場でした。

 これまで4シーズンNBAで戦ってきたのに、それでもキャンプ契約しか掴めない現実に「あぁ、僕の実力はこの程度なのかな」という思いが正直ありました。それはチームに対するものではなく、あくまで自分自身に向けた不満や歯痒さでした。

 つまり僕は、5シーズンに渡って一度も開幕ロスターが確定していない“崖っぷち”の状態からのスタートとなったのです。まずはキャンプを勝ち抜かないと次がありません。

「また一からやり直しか…」

「またここから這い上がらないといけないのか…」

 焦りもあったのか、今年の夏は怪我が続いて、6月から9月までは練習すらできない日々を過ごした時期もありました。今だから言えるのですが、開幕ロスターに残る自信すら失いかけたこともありました。でも、キャンプにすら呼んでもらえない選手もたくさんいるなかで、僕はこうやって今年も挑戦できる立場にいる。そのことにとにかく感謝の気持ちを持たないといけないと思いました。

 他の選手たちが次々と去っていくのを目の当たりにしつつ、NBA随一のスーパースター軍団ネッツの中で、必要とされる選手であることを追い求めて、プレシーズンゲームの最終戦まで戦い抜きました。

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 そして開幕直前。ショーン・マークスGMから、開幕ロスター15人のうちの1人に選ばれたことを正式に告げられました。その場で改めて僕は、こういう機会を与えてもらえた感謝の言葉を伝えました。すると彼は「雄太、これは君自身で掴み取ったものだよ」と力強く言ってくれたのです。

 実は開幕ロスターは必ずしも15人である必要はありません。これだけスーパースター揃いのチームであれば14人でもいいのです。それでもこの僕を残してくれたのは、それだけチームが僕を必要としてくれているからでした。マークスGMの言葉から、そのことを確信することができて、開幕まで生き残れた安堵と自分の実力を認めてもらえた嬉しさを感じることができました。

 でもすぐに、そんな気持ちから僕のスイッチは切り替わりました。

 もう今シーズンはスタートしているのです。ロスターに名を連ねてはいますが、無保証契約という僕の立場は変わりません。文字通り“崖っぷち”の状況には変わりありませんから、今シーズンも1分1秒たりとも無駄にすることなくプレーして行きたいと思っています。

トロントは僕にとってかけがえのない場所

渡邊雄太

 そして明日10月22日(米国時間21日)。この日は僕にとって少し特別な意味を持つ試合があります。開幕2戦目、ホームに迎える相手が昨シーズンまでプレーしていたトロント・ラプターズだからです。

 僕にとってトロントはお気に入りの街でした。都会だけど落ち着いた雰囲気があって、街全体が美しく湖など自然も豊かで、本当に穏やかな空気に包まれていました。何より僕自身が驚いたのは、バスケ以外で出かけることが少なく、新しい友人もできない僕が、トロントではバスケとは関係ない友人もできたのです。

 チームには2シーズン在籍していましたが、コロナの影響もあって最初の1年目はフロリダを拠点にしていました。だからトロント自体に住んでいたのはたった1シーズンだけです。でも2年目に初めてトロントに行ったとき、街を歩いているといろんな人から「Yuta!」と声をかけられてびっくりしたことは忘れられません。これだけ多くの人が僕のプレーを見てくださって応援してくれていたんだと嬉しく思いました。

 トロントのファンはとても熱狂的で、チームを離れた今でもSNSを通じて多くのみなさんが温かいメッセージをくださっています。そんな人も街並みも含めて、トロントは僕にとってかけがえのない場所になりました。今後もオフになったらきっと毎年骨休めに行くでしょうし、この場をお借りして感謝の言葉を伝えさせていただきたいと思います。トロントのみなさん、本当にありがとうございました。

 でも、今日これからラプターズは対戦相手となります。慣れ親しんだチームメイトもいますが、試合となれば容赦せず徹底的に叩きのめすつもりです。ネッツにはケビン・デュラントやカイリー・アービングらNBA屈指のポイントゲッターがいて、彼らに対してラプターズは特殊なディフェンスをしてくるとイメージしています。昨シーズンにネッツと対戦したときには、僕も特殊なディフェンスを彼らにしていたからです。試合の中で戦術を色々と変えてくるので断言はできないですが、何を仕掛けてくるか今から楽しみですし、そんなラプターズを倒すために僕も全力を尽くします。

Scott Audette / Getty Images

 僕にはいつも胸に刻みつけている大切な想いがあります。

 バスケの最高峰NBAでプレーできるのは、世界でたった450人。

 世界的なバスケ人口が4億5000万人と言われる中での450人は、0.0001%の存在です。

 そもそも入ること自体が圧倒的に難しいリーグで、それ以上にこのリーグでサバイブすることの方が難しいと言われています。NBA選手の寿命が2〜3年と言われる中で、毎シーズン崖っぷちに立たされ、ロスターで下から数えた方が早い僕が、5年間も450人中の1人としてプレーし続けているという事実は歴代でもなかなかいないはずですし、それだけは自分自身を誇りに感じています。

 そしてもはや僕にとっては「日本人選手として」という意識ではなく、かつてNBAをテレビで見て「僕もあの舞台でプレーしたい」と強く願った一人のバスケットボール少年の夢が、今こうやって5年目も実現し続けていることに自信を持ちたいと思います。

 ネッツの一員として、今の僕に重要なのはチームにしっかりアピールをすること。そして自分の役割を明確にすることが大事だと感じています。ご存知の通りネッツはスーパースター軍団です。そんな彼らの引き立て役というか、僕にしかできない役割が絶対にこのチームにもあるはずです。プレシーズンと同様にシーズン中もそれを追い求め、僕は必要とされる選手でいたいと思います。

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 4年ぶりに帰ってきたブルックリン。

 キャンプ契約から通じて、この街での暮らしも1ヵ月半ほど経ちました。暮らしてみると住みやすさは抜群だし、遠征から戻って来ると「あぁ、帰ってきたな」と気持ちも落ち着き、すでに“ホーム感”も出てきています。

 僕はブルックリンのなかでもダンボ地区が特に好きです。束の間の休息にこのエリアで食事をしたり散策することがあります。ブルックリンブリッジとマンハッタンブリッジという、美しい2つの橋に挟まれ、川の向こうにはニューヨークの摩天楼も見えて、石畳と赤煉瓦の建物が再開発された街並みは雰囲気も抜群です。今はまだ出歩けていませんが、もっとブルックリンのことを知ったら、もっともっとこの街を好きになるだろうなと思います。

 そしてシーズン最後までネッツという素晴らしいチームで戦い抜いて、行き交う人々に「Yuta!」と優しく声をかけられる存在になれるよう、今シーズンも毎日を大切に過ごして行きたいと思います。

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