ANTHONY J CAUSI/ICON SPORTSWIRE

“手紙” あの頃の君へ ~Letter to My Younger Self~

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 リトル・ジョニーへ。

 止まるんだ。

 家の周りをぐるぐる走り回るのをちょっとだけやめようか。兄貴が学校から帰ってくるのを待つ間、お前はそこを300周くらいすることを俺は知っている。体の中から力が無尽蔵に湧き上がってくるお前はそうするしかないこともわかっているよ。

 子どものお前には難しいことだけど、いまここでしてほしいことが2つある。まず座ってくれ、そして、話を聞いてほしい。

 これから、大事な話をするぞ。

 2004年、お前はダックボートに乗ることになる。

 ダックボートっていうのはね、水陸両用のでっかいバスのことだ。ジョニー、それはすげぇ乗り物なんだよ。きっと気に入るよ。でも、いまはそういう話じゃないんだ。ある爽やかな秋の日のことだ。お前は大勢の熱狂したレッドソックスファンに取り囲まれながら、優勝パレードを行うんだ。お前は、その瞬間を存分に楽しみたいことだろう。でも、問題は、ダックボートの中で浴びるほどの、えーと、つまり飲み物を飲むことになって、無性に小便がしたくなってくる。そこで恐ろしいことに気づくんだ。この乗り物にトイレがついてないってことにね。

 だから、よく聞いてほしい。ダックボートに乗る前にテニスボールを入れる容器を1つ忘れないようにするんだ。そいつはいざというとき、ペットボトルよりもはるかに役に立つからね。

 そいつはお前にとって本当にたった1つの希望なんだ。

Courtesy of The Damon Family

 あっ、それともう1つ。その年のア・リーグ優勝決定シリーズの期間にお前は宿泊しているホテルの近くの畑からカボチャを盗んでくるようにお願いされるかもしれない。ちょうどハロウィンの時期だからね。それは、お前の奥さんのアイデアだ。彼女は、本当にすごいよ。とんだ悪知恵だよ。当然、お前はカボチャをくすねてきて、それをバルコニーから放り投げるんだ。

 そして、ホテルの警備員に見つかってしまう。いまとなっては笑い話だ。

 俺は過去を変えるようなことはしたくないからカボチャをくすねるのは仕方ない。でも、彼女には小さいやつにするように説得するんだよ。どんなときも可能な限り大きなものに挑みたいという人生であったとして一番大切なシリーズの真っ最中に10kg近いお化けカボチャを宿舎の外に落とす必要なんて全くないんだから。

 ここまでの話をまとめるよ。どうか覚えておいてほしい。ダックボートにトイレはない。2004年の時点ではまだ完備されていない。テニスボール用の容器を用意すること。そして、カボチャは小さいやつだ。

 ま、そう言うことだ、これがお前に伝えたいことのすべてだ。

The Damon Family

 わかったね。って冗談だよ。もう少し話を聞いてほしい。

 さっき俺が言ったように、お前が体の中で感じている火花のようなもの、ずっと遊んでいたい、ずっと動いていたい、ただ走り回っていたい気持ちになる、説明のつかないエネルギー、これは神様からの贈り物なんだ。お前のアスリートとしての素質を際立たせるものなんだ。

 いま、お前は何かに苦しみ、苛立っているかもしれない。お前は吃音だからいつも大声を出すことを怖がっていると俺は知っているよ。常に心の中に伝えたいことが溢れていて、それらをいっぺんに言いたくなる気持ちが言葉を詰まらせる原因なんだ。でもね、お前をからかう子たちなんか気にするんじゃないぞ。傷ついているのはわかってるよ、しかし、そんなのはじきに終わる。言葉でうまく表現できなかったとしても、すぐにお前はもっと自然に自分を表現できる方法に出会うんだよ。それは野球さ。

 お前は幼いときから周りの子どもたちができないような動きができていたよね。グラウンドで自分より4、5歳上の子を相手に競い合って一番になるだろう。高校に上がるころには全米一の野球選手になるだろう。デレク・ジーターという名のミシガン生まれの遊撃手よりちょっとだけ早く。その名前は覚えておく価値があるから忘れないようにはしたほうがいい。

 いまここでお前にわかってほしいのは、身体能力だけでは目標を成し遂げることはできないということなんだ。他人への思いやりや忍耐もなくてはならないが、それ以上に何よりも物事への取り組み方が大事だ。ありとあらゆる才能を備えていたとしても、それなしには可能性を最大限に引き出すことはできないんだ。

 だから、いまの俺がお前にできる一番のアドバイスは母さんから目を離さないようにということだ。母さんがどんなふうに物事に取り組んでいるか、近くでよーく観察するんだ。

 お前は母さんの仕事についていく生活を送ることになるだろう。まずはホテルの清掃。次にオフィスビル。そして一般家庭。それがどれほどの時間がかかり過酷なことなのか、お前にもわかるだろう。タイからの移民で、働かなくては生きていけない環境で育ってきた母さんはお前にとって最高のお手本なんだ。炊事や掃除はやりたくないだろうが、そういう大変な仕事がのちに役に立つんだ。自分を律するためには大切なんだ。そんな素晴らしい母親をもったお前は本当に幸運なんだよ。

 そうだ、まだある。このことはすでに知っておかないといけないことだけど、マッチで遊ぶのはよしてくれよ。

 少なくとも2、3回、危ないときがあるんだけど、もしも家が火事になったらお前は両親にこっぴどく叱られるだろう。そうなると、決してカンザスシティ・ロイヤルズから指名されることはないだろう。

 その通り、ジョージ・ブレットのチームのことだよ。

 俺の話を聞いているかい?

Chuck Solomon/SI/Getty Images

 お前はベースボールカードを買い取ってそれを商売にするコツを見つけ出すだろう。それは、フロリダ州オーランドのシーワールドでサングラスを売っていた仕事などよりはるかに儲けが出る。 

 でも、トップス社が1975年に発売したジョージ・ブレッドのルーキーカードを持ってるだろ? それだけはどこにも売っちゃダメだ。ジョージはお前のお気に入りの選手。彼はどんなボールでもヒットにできるハッスルプレーヤーなんだよ。

 だから、カンザスシティ・ロイヤルズが高校を卒業したお前をドラフトで指名したときは興奮のあまり頭がおかしくなりそうになるのは当然のことだ。子どものころから応援していたチームでプレーするチャンスを掴むなんて想像すらできないだろう。人生の絶頂にあると感じるだろう。それほど素晴らしいことなんだよ。

 でもな、ジョニー、お前はうんざりするほどの敗戦から学ぶんだよ。

 メジャーでの最初の5年は散々なシーズンになるだろう。抑え投手のセーブ数よりもセーブ失敗数が多いという米大リーグ史上初めてのチームになるだろう。それを聞いて気分が滅入るのはわかるが、そこは避けて通れない道なんだ。負けはホント、最悪さ。

 そして、その5年間でお前はリーグで最高の選手の1人になるべく、技術を磨き上げていくわけだけども、それでもチームは負けてばかりで次第にお前の心を蝕んでいくことになるんだ。

 でも、お前が感じるフラストレーションや挫折、それはすごく大切なことなんだ。変な言い方だけど、本当にお前にとっていいことなんだ。野球は失敗のスポーツだ。打席で打てないことのほうが圧倒的に多い。最高のスイングができてもアウトになることもあれば、酷いスイングが二塁打になることもある。だから、試合に負けてもしっかりと自分を持ち続けていれば、お前自身が負けることは決してない。メジャーで最初のころに経験した負けたときの感情はずっと覚えているし、それによって成功したいという気持ちがいっそう強くなっていくんだ。

 勝つためにはチームを移籍しなければいけないこともあるんだ。新しい習慣を学ぶ必要もあるだろう。そして、お前はオークランドでジェイソン・ジアンビと出会わなくてはいけないんだ。

 ただね、彼に関する話は数え切れないほどたくさんあるけど、どれも子ども向きじゃないんだよね。彼は君の人生を面白いものにする魅力的な人間だ、とだけ言っておこう。これをすれば成功できるといったモノがいくつかあると、いろいろな人から聞くだろうけど、それは事実ではない。一番大切なことは自分に役に立つやり方を見つけ出すことなんだ。そしてジェイソン・ジアンビが実践する勝利へのアプローチはお前にとって効果を発揮するんだ。

 そのアプローチとは楽しむことだ。試合前に、マウント・デービスと呼ばれるスタジアム最上階の観客席に向かってゴルフボールを打ったこともあるし、ラジコンカーを60マイルのスピードで走らせて、ブルペンのマウンドの傾斜からどれだけ高く跳ぶかを実験したり、箱から出したばかりの500ドル(約5万2千円)のラジコン飛行機をすぐに墜落させたりもする。(このころはおもちゃでたくさんのお金が飛んでいくことになるけど、それだけの価値はあるぞ)

 勝利に向かって気持ちを高める一番の方法はいい時間を過ごすことで生まれてくるんだ。オークランドでの時間は長くはないけども、そこで試合へのアプローチはガラリと変わることになるんだ。どうすれば勝てるかを学び、それ以上にその勝ち方を仲間たちにも示せるようになる。

 そして、それはレッドソックスと契約してから役立つんだ。

Mark Goldman /Icon Sportswire/Getty Imag

 お前はそこを理解していると自分で思っている。

 フロリダ大とフロリダ州立大の試合を見て育ったお前は、ライバルとはファン同士がお互いに罵り合う関係性のことだと知っているよね。

 でもね、ジョニー、お前はライバルとはどういうものなのか、本当の意味をまったくわかっていないんだ。

 レッドソックス対ヤンキースの試合に出るまではね。イニングの合間に選手同士が野次を飛ばし合ったり、スタンドでファンがけんかをする。まだスプリングトレーニングのオープン戦だというのに。

 でも、その前に俺はお前に2002年のレッドソックスでの初試合の話をしなきゃいけないな。といっても、それは球場の外で起こったことだけど最終的にとても大事になるからね。

 それは試合が終わった後のことだ。お前は新しいチームメートたちと飲みに行きたくなるんだ。でも、みんな下手な言い訳をして参加できないと言うんだ。参ったなあ、きょうの夜は無理だな、あれがあるんだよ、あれが、ってな感じでね。

 お前はようやく2、3人の選手を誘い出し、飲みに繰り出すんだが、そんな俺たちを見て、街の人は驚くんだ。バーに行くと用心棒らしき人が身分証明書を見せるように言ってくる、そして驚いたふうに二度見してこう言ってくるんだ。「えっ! あなたはレッドソックスの選手ですよね? ボストンの選手が連れ立って飲みに出るのを初めて見ました」って。

 そこでお前はこう言うんだ。「ま、時代は変わろうとしてるんだよ」って。

 その日からお前はボストンに楽しみをもたらすことに心を砕かなくてはいけなくなるんだ。楽しませるとは、ただ楽しませればいいってもんじゃない。ジェイソンが教えてくれた勝ちにつながるような楽しみ。ボストンで勝つことと楽しむことを結びつけることでお前の人生は変わっていく。お前だけじゃない。実際にはたくさんの人の人生を変えていくんだ。

 そして、ジョニー、信じられないことにその時期に経験する楽しさは言葉では言い表せないほどのものなんだ。

 手始めにお前はチームのいたずら王になるだろう。

 もしも他の選手の両方のスパイクのひもを結び合わせるチャンスがあったら逃すんじゃないぞ。クラブハウスの中をフルチンで歩き回りたい気分になったら、それもやるんだ。チームメートは確実に面食らうだろうけど、試合前にチームメートがフルチンになるという想定外の光景を目の当たりにしてなぜそんなことをしたのかを考えたりするだろう。それが何なのかははっきりわからないけど、要するに、科学みたいなもんさ。お前もチームメートもリラックスすればするほど、いいプレーが生まれるんだ。

 時々、お前はフィールドに出る2分前にクラブハウスの風呂から出ることもあるだろう。そうするとクラブハウスのみんなは「一体、ジョニーはどこにいるんだ? 今日は試合に出ないつもりなのか? スタメン表に名前があるんだぞ」ってなるかもしれない。でも、彼らはお前が次にどんなくだらないことをしでかすのかを考えている間、その日対戦する投手のことを心配したり、その試合に勝つことがどれほど重要なのかを考えたりしなくなる。そこでお前は素早くユニホームに着替えて、みんながフィールドに出るより一瞬速くベンチから飛び出すんだ。これは確実に爆笑を取れるテッパンネタだ。

 最終的にお前はひげを生やし始めることになるんだ。ある人はその風貌から原始人を連想するだろう。そして、マニーやパピという名の選手たちと出会い、野球史に名を残す偉大なチームになるんだ。ここでいまも明かされていないすべてをお前に話すつもりはないし、話したところでたぶんお前は信じないだろう。でも、ア・リーグ優勝決定シリーズでお前のチームがヤンキースに3連敗して後がなくなっても、これまでどおり、試合へのアプローチは変えるな。失敗を恐れたり、心配しながらプレーをするな。周りのファンやメディアがパニックになってもクラブハウスでジョークを言い続けるんだ。笑い続けるんだ、いたずらを続けるんだ。たとえ、逆転が難しく、屈辱的な敗戦を避けられない状況になっても、だ。

 なぜなら、負けることを恐れた瞬間、このシリーズは終わることになるからだ。

 そして、どうにかこうにかお前たちのおバカ軍団は歴史の1ページに記されることになるんだ。永遠に人々の記憶に残る特別なことを成し遂げるんだ。

 ここで、ダックボートの出番だ。そう、優勝パレードで歓喜の美酒を味わうことになる。

Brad Mangin/MLB Photos/Getty Images

 その後すぐにお前はある選択を迫られることになるだろう。それは本当に難しいことだった。

 お前の心はずっとボストンにあるだろう。現役時代が終わった後もいろんな形でそれは続くだろう。

 しかし、これはビジネスだ。フリーエージェントになったお前にヤンキースが最高のオファーを提示してくるだろう。お前はレッドソックスにヤンキースと同等のオファーを出すように要求しようとするが、彼らは応じようとしない。嘘じゃないんだ。そのことでお前だけじゃなく、特別な時間を一緒に過ごしたファンも傷つくことになるんだ。お前は裏切り者と呼ばれ、憎まれることになるだろう。しかし、最終的にその出来事がお前に火をつけるんだ。自分と契約しなかったことが間違いだったと、自分の残された野球人生を懸けてレッドソックスに証明してやろうってね。

 ヤンキースで過ごした時間はまた違うものになる。そこはウイニングカルチャーを構築するために周りの選手をリラックスさせたり、いたずらを仕掛けたりする必要のない場所なんだ。ウイニングカルチャーのことを気にしてきたお前のような選手が来るずっと前からこのチームにはそれを知っている選手たちがいたんだ。特にミシガン生まれのデレクはね。彼は本当にすごく良い選手になっていくんだ。お前と同じように高校を出てプロに入って、お前を超えることはないけどいい感じになるんだ。

 しかし、そこでは原始人のような風貌とはお別れしなくてはいけなんだ。ミスター・スタインブレナーには逆らえないんだ。

 お前はニューヨークでも素晴らしい経験をすることだろう。素晴らしいライバル関係にあるヤンキースとレッドソックスの2チームでプレーする貴重な経験をすることになるんだ。俺からのアドバイスは、すべてを受け入れろ、だ。声援とブーイング、どちらも楽しむんだ、そして、自分よりもはるかに大きな存在の一員であることを楽しむんだ。なぜなら、お前が現役時代に終始符を打つ日を迎えたとき、お前はあれが人生最高の時期だったと思うようになるからだ。

 どうだ、走りたくなってきただろう。人生を楽しみ続けることを忘れるんじゃないぞ。すべてを楽しむことができれば、そこに負けなんて存在しないんだ。

 だからこつこつ努力を続けるんだ、坊主。そして、自分の夢をつかむまで走ることをやめるんじゃないぞ。

-ジョニーより

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