Dear Japan

Rob Tringali

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 私は6年半前に、ちょっと“らしくない”ことにチャレンジしました。ヤンキースの選手として現役生活を終えた2014年10月のことでした。それまでの人生のほとんどを大きな夢の中で過ごしてきましたが、新たな情熱を捧げられる次のステップに進むべきことを理解していました。

 私の決断は、多くの人を驚かせることになりました。少数精鋭の信頼できるメンバーとともに、あるネットメディアを立ち上げることにしたのです。

 それが「ザ・プレーヤーズ・トリビューン(TPT)」でした。

 発想は至ってシンプルです。アスリートが自分の言葉で、自分自身のストーリーを語ることができる場を作ろうと、私たちは考えました。

 彼ら、彼女らが、ありのままでいられる場所です。

 そしてこの数年間で、私は「ザ・プレーヤーズ・トリビューン」の存在意義を再認識する機会を幾度となく経験しました。例えばアメリカでのリアルな人種問題を提起したエイジャ・ウィルソンや、自身の心の病を包み隠さず打ち明けたケビン・ラブ、女性アスリートの置かれた状況に一石を投じたイブティハージ・ムハンマドなど、スポーツの世界を越えて、社会全体に影響を与える力強いストーリーが語られてきたのです。

 もうひとつ、強く心に残っている出来事があります。実はこの話は、私自身の個人的な体験談で、今回初めて語ることです。

 「ザ・プレーヤーズ・トリビューン」が世に出て数カ月後、私は友人の松井秀喜と彼の故郷を旅し、素晴らしい時間を一緒に過ごしました。

 その旅先で、忘れられない出来事がありました。日本には熱烈な野球ファンが存在しているのです。私は日本語が堪能ではありませんが、ボールにサインをねだる“万国共通語”くらいはわかります。

「ジーターさん、プリーズ! ジーターさーん!」

(実際は、僕より秀喜のほうがたくさんサインをねだられていました。僕はお客さんであり、日本で秀喜は本物のレジェンドですから。)

 ただ、この旅で一番の思い出は、実はそんな光景から距離を置いて、秀喜のにじみ出る人間性に触れられたときのことです。彼の両親とランチを食べたり、いろいろな会話をしながら金沢の街を散策しました。

 彼と一緒に“ありきたり”な時間を過ごしました。でもそこに、大きな意味があったのです。

 秀喜とは何年来ものチームメートであり、皆さん同様、彼が選手としてどれほど凄いかよく理解しているつもりです。彼はたった一振りで5万人もの観衆を熱狂させてきました。そう、彼はスーパーヒーローなのです。しかし、1人の人間でもあるのです。あの旅は、秀喜という人間を違った側面から知る機会になりました。

Derek Jeter | Hideki Matsui | The Players' Tribune
Koji Watanabe/Getty Images

 思い返せば、日本への旅で得た感動は、野球を愛する気持ちにも通ずるのではないかと思うのです。

 野球は単なるスポーツではない。それが私がこのスポーツを愛してやまない理由の1つです。野球は「パスポート」なのです。世界中の異なる人々や言葉を、文化を、野球はつなげてくれます。もしも私が野球選手じゃなかったら、日本という国は触れることのできない世界だったはずです。秀喜のような友人やその素晴らしい家族たち……私はきっと彼らと出会うこともなかったでしょう。

 これこそが「ザ・プレーヤーズ・トリビューン(TPT)」の根幹をなす理念なのです。

 TPTを設立する際、私たちは「The Voice of the Game(ザ・ボイス・オブ・ザ・ゲーム)」というスローガンを掲げました。しかしほどなくして、私たちのミッションはさらに奥深いものだということに気づきました。1つのVoice(ストーリー)にのみにスポットを当てるのではなく、やがてそれは会話になり、あちこちで語られることが大切なのです。英語、ポルトガル語イタリア語中国語……ポール・ピアースのように絵文字で語ることがあってもいいのです。

 そして本日、「The Players’ Tribune in Japan(ザ・プレーヤーズ・トリビューン ジャパン)」ローンチの日を迎えました。今日から私たちは、日本語でもその会話を楽しめることになりました。

 TPTが成長してゆく姿を目の当たりにして、ワクワクする気持ちを抑えることができません。アスリート自身がストーリーを共有する場所を提供する。そんなシンプルな発想から、私たちはこのプラットフォームを作り上げました。重大な事柄や苦悩、喜びなど、様々なストーリーが、ここにはあるのです。

 なぜ、TPTが稀有な存在なのか。そう問われたら私の答えはいつも同じ。私たちのコンテンツが語ってくれる、そう答えます。

 TPTのミッションを理解するには、サッカーで夢をかなえ、家族を貧困から救ったロメル・ルカクのストーリーの、冒頭の文章を読むだけでじゅうぶんでしょう。

「我が家のカネが底を尽きたと悟った瞬間を覚えている。冷蔵庫の前に立つ母さんの顔を、いまでも鮮明に、だ。」

 ロメルは6カ国語を操る、世界的なサッカー選手です。ただ残念ながらそこに日本語は含まれません。でも今日からは、日本の皆さんにも彼のストーリーを彼の言葉で読んでもらえるようになり、その他の素晴らしいアスリートのストーリーも同様に提供できることをとても嬉しく思っています。

Kevin Love | A'ja Wilson | Romelu Lukaku | Derek Jeter | The Players' Tribune
Stacy Revere/Getty Images; Laquan Sumpter; Guillermo Hernandez Martinez/The Players' Tribune

 エッセイ、ポッドキャスト、動画、ソーシャルメディアなど、それぞれの日本人アスリートが好きな方法でファンと繋がるための信頼できるリソースとして、私たちTPTはサポートしていきます。

 既存のメディアと競い合うことは目的ではありません。スポーツ界では、ジャーナリストやレポーターは欠かせない重要な存在です。私は彼らに多大なる敬意を払っています。私たちの役目はそれとは別のところにあります。アスリートが素顔のままで、1人の人間としてファンと密接につながることができる場所を提供することです。

 TPT創設から6年半を経てもなお、私は同じ言葉にたどり着きます。

「ヒューマン」

 野球をできなくて寂しいでしょう、そう私は多くの人から聞かれます。しかし本当に、グラウンドにいられないことは寂しく思っていません。春季キャンプでの厳しいトレーニングや、遠征、リハビリは特にそうです。ただクラブハウスで過ごした時間は、時折、懐かしく思うことがあります。長年思い出を分かち合った秀喜や、すべてのチームメートを懐かしく感じます。

 言い換えるならば、スポーツが織りなす人間模様が懐かしいのです。世界各国のアスリート、彼らとの会話やストーリー、それが恋しいのです。

 だから私は「ザ・プレーヤーズ・トリビューン」を始めました。

 それこそが、TPTを日本でも展開する理由です。

 この日本という国に来られたことは大変光栄なことであり、受け入れてくださったことを本当に感謝しています。

デレクより、心を込めて。

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