僕が間違っていればいいのだが

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 僕は球界で「何でもずけずけ言うやつ」と思われている。言い方を変えれば、僕が球界を混乱させているということだ。でも、「何でもずけずけいうやつ」というのが僕に対する正しい表現なのかわからない。僕はただ真実を語ろうとしているだけだ。事実に基づいたことをいつも言っているつもりで、決してでたらめを言っているわけではない。もし僕が間違っているなら、それは素直に認めるつもりだ。ときには、真実を話すことが誰かを困らせたり、怒らせたりすることは理解している。でも、それで自分を変えるつもりはないし、自分が正しいと思っていることを引っ込めるつもりはない。

 真っすぐに生きていくのは大変だ。人は孤独でいる時間が長いし、それはかなりしんどいものだ。しかし僕は孤独に慣れていた。温かい家族のもとで育ったけれど、基本的には孤独のなかで大きくなった。友人がいない時期が何度もあった。僕はアスリートだったけれど、同時にオタクでもあった。オタクだったので体育会系には馴染めなかったし、体育会系だったからオタクの中に入っていけなかった。

 高校生のころ、ランチタイムには友達と遊ぶよりもチェスをしたり宿題をしたりしていた。授業が終わって帰宅すると、宿題を済ませてから公園に行って3、4時間一人でトレーニングをしていた。金曜日の夜には家で父親とボクシングの中継番組『フライデー・ナイト・ファイツ』を見ていた。映画に行ったり、パーティーに出かけたりといったことはなかった。友達がいなくても幸せだった。

 けれど、1人でいるのに慣れるまでは、嘘でなくきつかった。ある朝、鏡で自分の顔を見て「僕の何がいけないんだろう? どうしてみんな僕を好きになってくれないんだ?」と感じていたことがあった。学校の成績はよかったし、スポーツも得意だった。UCLAで野球をすることになっていて、それは最高なことだった。人当たりも悪くなかったと思う。

自分のスタイルを変えるつもりはないし、自分が正しいと思っていることを引っ込めるつもりはない

 そのとき、僕はいつも自分らしくいようと決心した。オーケー、他人が僕のことをどう思おうと気にしない。変な妥協をしないことにした。誰も僕を監視できないし、誰も僕の行動を左右することはできない。なぜなら僕は僕だからだ。好きでも、嫌いでも、愛してくれても、憎んでくれても、なんでもいい。自分らしくいることが僕にとって大事なんだ。

 2年前、僕がアストロズの投手たちは回転数を増すために粘着性の異物を塗っていると発言したときは大変だった。あのときは自分1人で矢面に立たなければならなかった。でも、僕が何を言うべきか誰かに指図されるつもりはなかったし、真実を話すつもりだった。

 ところが不幸なことに、真実は悪い方向に向かってしまった。誤解してほしくないのは、僕はそのとき、自分の指摘が間違いであってほしいと願っていたことだ。

Jeff Curry
Jeff Curry / USA TODAY Sports

 メジャーリーガーの間では、サイン盗み疑惑はよく聞く話だった。カメラ映像だったり、ゴミ箱の不自然な叩き方だったり、ヒューストンでは他のチームとちょっと違うのではないかと2、3年間ずっと言われていた。疑惑は深かったけれど、そんなことを公言するのはどうかというムードがあった。確固とした証拠がない以上、扱いが難しい。だから余計な波風を立てさえしなければ、今まで通りの豊かな暮らしを続けていられる。だからこそ、多くの選手の間で話題になってはいても、この件が表沙汰になることはなかった。

 転機は2018年。悪事の1つをつかんだときだった。アストロズの投手たちは禁止されている粘着性の異物を使ってボールの回転数を増やそうとしていた。それを告発したとき僕は非難されたし、バカにされたりもした。でも僕は「自分の告発を否定することはできない。そんなことは誰の目にも明らかだ」という感じだった。回転数2200のいい投手がヒューストンに行ったら回転数が2600から2700になったなどという話を知っている。

 僕は2012年からボールの回転数に注目してきた。8年にわたって僕はどうしたら速球の回転数を増やせるか考えてきた。回転数が増えれば投手にとって有利だと、随分前から気づいていたからだ。もしトレーニングやテクニックで回転数を増すことができれば、それはとても大きなことだ。だが8年たったいま、僕は禁止されている異物を使用する以外にその方法を見出せないでいる。

 野球界は扱う必要がない限り、この大事な問題に手をつけることはないだろう。なぜなら、およそ70パーセントの投手が禁止されている何らかの異物を使用しているからだ。異物をどのように使うか、使用法を知っている球団と知らない球団がある。アストロズはさしずめ違反の最先端を行っていることになる。

おおよそ70パーセントの投手が禁止されている異物を使用しているからだ

 メジャーリーグ機構はサイン盗みの問題を扱った。扱わなければならなかったからだ。元アストロズのマイク・フィアーズが昨年11月、『ジ・アスレチック』に事実をぶちまけた。「フィアーズはこの話を球界内に留めておくべきだった。記者に言うべきではなかった」と言っている人がいたのをテレビで見た。でも、悪事は2年間も続いていたんだ! その間メジャーリーグ機構は、何度もこの問題に関して球界内からレポートを受け取っていた。でも何が起きた? 何も起きなかった。だからフィアーズは記者に明かしたのだ。そして記事になったのだ。

 まあ、メジャーリーグはビジネスだ。興行と利益を追求するものだ。僕もそう思う。

 同時に、試合はどのように行われるかが肝心だとも思っている。誠実さをもって行われるものなのだ。選手たちは試合を“戦い”だと考えている。勝とうと努力している。全力を尽くして負けたなら、それは納得できる。でも負けた試合で相手がずるをしていたら、それは受け入れることはできない。そんなことは、あってはならない。

Adam Hagy
Adam Hagy / USA TODAY Sports

 サイン盗みは大目に見よう。それは長い間行われてきたであろうことだからだ。許されないラインとはどこか? 僕にとってはそこが本質的な問題だ。

 球界はその線引きをしておく必要があった。アストロズは過去の事例と比較してどのへんが悪いのか? それはテクノロジーを使ったことだ。彼らはカメラを使って捕手のサインを覗き、それを瞬時に打者へ伝達した。さらに問題なのは、どのくらいの頻度で盗んだサインを打者に伝えていたかだ。もし僕が試合で打ち込まれた後も何も考えず、その後の試合でも同じサインを使い続けていたのなら、それは僕の責任だ。

 しかしその場で瞬時に対応されたとしたら、僕はどうしたらいいだろう? 投手として、どうやって打者に向かっていけばいいのか。打者に次の球を予告して投げ、結果は運任せにでもしたほうがいいのではないか。投手が投げる前に、捕手のサインを打者に届けるテクノロジー? そんなものは禁止されるべきだろう。

 試合の中でサインが盗めたらとても有利だ。不正がなければ勝てたであろう試合を落とすということじゃないかい、そうだろう? 試合の勝敗を左右する要素はそれ以外にもある。けれどもサインがわかっていれば、打者にとってとてつもなく有利だ。それは否定しようがない。

 問題は試合の勝敗だけではない。あまり聞いたことがないかもしれないが、不正によって、選手個人にとっても極めて不公平なことなる。次に何の球が来るか分かっていれば、シーズンの打率は1分も2分も違ってくる。本塁打も3本や5本、10本は増えるかもしれない。不正をしていない同じポジションの選手とどのような差が出るだろうか?

 バッティングでいい成績を収めていたら、FA市場での価値は上がる。例えば三塁手を求めている球団が3つしかなかったとき、ずるをして成績をかさ上げした選手が最後の一枠を取り、まじめにやっていた選手が職にあぶれるかもしれない。

 この不正の影響は長く、遠くまで及ぶ。なかなか容認できることではない。

 僕は個人的に、現在球界で起きていることはブラックソックス事件のようなものだと考えている。未来永劫、語り継がれていくことだろう。ステロイドよりもだ。ステロイドは、その全盛期には禁止されていなかった。

現在球界で起きていることはブラックソックス事件のようなものだと考えている。未来永劫、語り継がれていくことだろう。ステロイドよりもだ。

 それに対してヒューストンで行われたサイン盗みは、明らかにルール違反だ。昨年、一昨年と実施されていたルールを見れば、それが破られていたのは明らかだ。

 これは重大だ。僕はずっと正しかったのだ。それが証明されたと感じている。しかし、僕の告発が間違っていればよかったのに、との思いもある。

 信じてほしい、僕がどう感じたかという事は、ここでは重要ではない。ここでそれは無関係だ。肝心なのは、何よりも試合そのものだ。フィールド上では、誰もが同じ条件でプレーしていてほしい。試合はスポーツマンシップに則ったものであってほしい。ファンに理解してもらいたいのは、事件はヒューストンのミニッツメイド・パークで起きたことだとしても、その影響はリーグ全体のあらゆる球場、あらゆる選手に及ぶということだ。

 この問題を解決するのはとても大切なことだ。野球の試合そのものだけでなく、それをプレーしている選手にとってもだ。僕もそのうちのひとりだ。僕がプレーしている間は、あらゆることがフェアであってほしいと思っている。

 そうでないと感じたら、僕はそのことを正直に言う。それは僕ひとりのためでなく、他の779人のメジャーリーガーのためでもあるのだ。

トレバー・バウアー