クロスオーバー

Sam Robles/The Players' Tribune

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 世界最高のアスリート2人が、世界最古のバスケットコートで対面を果たした。2018年9月、ステフィン・カリーと、ネイマールがパリのYMCAで人生について大いに語り合った模様をお届けする。

The Players’ Tribune (以下、TPT)

 お二人にまずは簡単な質問から伺います。少年時代、それぞれの競技に生涯を捧げようと決心した瞬間、それがいつだったかを教えてください。

カリー

 バスケに人生を捧げようと思ったのは……6歳だったよ。僕が育ったノースカロライナのレクレーションチームでプレーしていたときだね。客席には、15人ほどいたかな。速攻で2対1の形になって、僕がボールを持った。相手ディフェンダーが僕に体を寄せてきたとき、普通なら味方にチェストパスや、バウンドパスを送るか、レイアップシュートを打つか、ってところなんだろうけど、僕はそうしなかったんだ。思い切りジャンプして空中で回転しながら、後ろにいた味方にパスを出した。僕とそのチームメートの呼吸もぴったりで、彼がレイアップを決めたんだ。まあ、観客席は大いに沸いたね。と言っても、まあ静かなものだったけどね。でもその瞬間、自分のクリエイティビティが、こうしたプレーの中から湧いてくることを理解したんだ。それでバスケが楽しいと思えて、このスポーツを愛するようにもなった。君はどうだい?

ネイマール

 きっかけとなったタイミングが2つあるんだ。まず3歳のちっちゃな子どもだったころママが、欲しいものをプレゼントしてあげる、と言ってくれたときだ。僕は駆け足でお店に向かい、サッカーボールをお願いしたんだ。そして2つ目が6歳か7歳のころ、サントスが優勝したときだった。ファンに交じって、父さんとお祝いに駆けつけた。カーニバルのような、飾られた車に乗った選手と一緒にパレードをしたんだ。手を思いっきり振って選手たちを見送った。「おめでとう!」って叫びながらね。その2つの出来事を経験して、サッカー選手になりたいと思ったんだ。

カリー

 そうなんだ。人のプレーがきっかけだったんだね。僕は父さんがNBAでプレーしていたし、毎日のようにそれを見ていたから、バスケをするのは当然のような流れだったんだ。でもたしか……。

ネイマール

 君のお父さんが? 僕の父さんもサッカー選手だったよ。

カリー

 君は、お父さんがプレーしていたということだけが、サッカーを始める動機じゃなくて、君なりに情熱を燃やせるかどうか、見極める必要があった。そして、君にその才能が備わっているかどうかもね。君の場合はそこがうまく運んだんだね。

Sam Robles/The Players' Tribune
Sam Robles/The Players' Tribune

TPT

 もしいま、ここに座っているのがお二人ではなく、それぞれのお父さんだとして、好んで話すであろう、あなたたちのエピソードはありますか? パーティーのたびに必ず出てくるような、ご家族お決まりの話題は。

カリー

 そうだねえ。父さんがここに座っていたとすれば、たぶん2つの話をしてくれるんじゃないかな。まず最初にしてくれるのは、この傷についてだと思う。僕が高校生最後の年のクリスマス休暇、父さんが開催したバスケの大会で、同じ市のライバル校と対戦したんだ。試合前のロッカールームで、僕はとても興奮していたし、ワクワクもしていたから、こんな感じのバーが突き出していることに気がつかなかった。「レッツゴー! 絶対勝つぞ!」とみんなで叫んで、チームメイトと盛り上がって飛び跳ねていたそのとき、僕はそのバーに、ほんと顔面がめり込んだかと思うくらい、おでこを打ち付けてしまったんだ。でっかいチョウチョみたいなばんそうこうを貼り付けて試合に出るはめになったよ。父さんはいつもこの話をするんだ。いまでも、僕のおでこに残っているそのときの傷を見て思い出すんだろうし、あの試合、僕がどれだけ入れ込んでいたかも知っていたからね。準備万端だったけど、ジャンプする場所にはもうちょっと注意しとけばよかったよ。

 もう1つは、大学2年のときの話をするだろうね。NCAAトーナメント1回戦で、僕らが初めて勝った、ゴンザガ大との試合だった。僕が勝利を決定づけるシュートを打ったとき、父さんを真っすぐ指さしたんだ。その活躍が僕ら家族にとってどんな意味を持つか理解していたから。最高峰でプレーできる証し、父さんからのバトンタッチなんだと、僕らはコートの上で理解し合うことができた。イカす話だろう。

ネイマール

 僕の父さんは、一心同体でいてくれた。つまり、サッカーをしているとき、父さんは僕と一緒にピッチに立っているような感じかな。『行け、ジュニア! こうするんだ、こんなプレーもいいぞ』って。だからサッカーをしていれば、ここでどう動くべきか、ということをまるで父さんが笛で教えてくれているように思えて、正しいプレーができた。いつも僕のプレーの助けになってくれていたし、その笛が多いほど、僕のプレーの質は高まった。

 けがをしたときの話もあるよ。父さんの試合を見に行ったとき、その試合後に僕はスパイクを履いて廊下を歩いていたんだ。そこにあったボールを蹴ろうとしたら滑って、転んでね。僕らは病院に行くことになって、父さんは次の試合には出られなかった。あのときは、すごく怒られたな。

TPT

 NBAファイナル、チャンピオンズリーグ決勝。あなた方は、その舞台で戦う日の朝を迎え、その特別な瞬間を味わった、世界でも数少ない2人です。それをテレビでしか見られない多くの人たちに、その感覚がどんなものなのか教えてください。

カリー

 初めてのNBAファイナルの日、朝目覚めて試合前の練習に向かう気持ちが、いつもとどう違ったのかいまだにはっきり言い当てることができないんだ。何か空気が違う、ってことかな。過敏で、アドレナリンの感じ方も違った。究極の目標としていたものが、手を伸ばせば届くところにある。何もかもが少し、スローモーションにも感じられた。練習、移動、試合に備えるためにやるべきことすべてが混沌としていて、レギュラーシーズンの試合や、プレーオフ期間中の何百倍も無我夢中でいるうちに事が進む。ただ、それは夢なんかじゃないことがわかっているから、すべてが別次元にまで高められ、その感覚の中で焦点が定まっていく。心の底から、そのときを長年夢見ていたんだ。ファイナルで戦って、勝利を手にしたときの、最高にアドレナリンが湧き出る感覚を知ってしまったから、これを一度でも味わえば、これほど興奮できる試合が他にはないと思えてしまう。そういう表現しかないだろうね。すべてがゆっくり進んでいく中で、想像できないくらい集中力が一点に絞られていく感じだよ。

すべてがゆっくり進んでいく中で、想像できないくらい集中力が一点に絞られていく感じだよ

ネイマール

 違いはあるよね。実はね、僕が……チャンピオンズリーグ決勝でプレーしたときよりも、君のNBAファイナルを見たときのほうが緊張したよ。でもやっぱりチャンピオンズリーグ決勝にも独特の雰囲気がある。集中力も必要だし、他のどの試合とも違う。初めて決勝でプレーしたときの僕は、不安いっぱいだった。でもいざ始まってしまえば、求めていたものを手にするためにここにいるんだって集中できたから、気持ちも落ち着いた。すべて、自然にね。

カリー

 つまり……、決勝の大舞台だけど、そこにあるのはフィールド、僕にとってはコートとボールがあるだけってことだね。ただ、たとえば僕らが毎日繰り返してきた、ボールをゴールに入れるんだ、というようなことすら忘れるような大舞台に向かおうとするときに、スイッチを入れてくれる何かを、君は理解しているんだよ。

ネイマール

 プレーするより、見るほうが緊張するね。君を見にも行ったけど、プレーも、ウォリアーズも大好きだよ。ただ、見るってのはドキドキするんだ。自分が決勝を戦うとき、落ち着いてプレーできるんだけど。でもあのとき、初めて君の試合を見に行って、もし負けでもしたら僕は疫病神呼ばわりだろうからね。

Jed Jacobsohn/The Players' Tribune
Jed Jacobsohn/The Players' Tribune

カリー

 君の父さんが君の試合を見に来るとき、同じことを言うかな? 僕の父さんはそう言っているよ。

ネイマール

 同じだよ。

TPT

 お二人は父親でもあります。お子さんの、お気に入りの話はありますか?

カリー

 数え切れないよ。毎日が面白いことのオンパレードだから。でも、これまでの“鉄板ネタ”は6歳の長女、ライリーの話かな。彼女はいつも、僕が普通の服を着ていたら『ダディー』とか、『ステフィン』って呼んでくれる。あぁ『ダディー』だけかもしれないけど。ただユニホームを着たときにはいつも『ステフィン・カリー』や『30番』になるんだ。ジャージ姿でゲームに臨むときの僕と、そこらを歩いたり家でくつろいだりするときの僕は明らかに違うのだろう。彼女はそうやって僕を違う名前で呼ぶ。着ているものが、人物を表してるんだ。ごまかしがきかない。ファンの考え方にも近いようにも思えるけど、背番号30、ステフィン・カリーのウォリアーズのジャージーは父ではない、別人格として彼女は認識しているんだね。

ネイマール

 学校に行ってた息子が、テレビでブラジル代表の試合のCMだと思うんだけど、それが流れたらしくて、そこに僕が映っていた。息子は『あれが僕の父さんだよ』って言ったら、友達は『ネイマールがお前のお父さんのはずがない』って返して、ちょっとした言い争いになってね。まあ、先生に場を収めてもらったみたいだけど、誰にも信じてもらえなかったことが悲しかったそうなんだ。

カリー

 だって学校で「僕の父さん? 父さんはネイマールだよ」……なんて言う子がいるなんて、まず思わないからね。息子さんは何歳?

ネイマール

 7歳だよ。

カリー

 うちは上が6歳。あと3歳と、生まれて2カ月の息子がいる。だからみんな3歳違いになる。2人が女の子で1人が男の子。本当に恵まれていると感じる。幸せなんだ。

TPT

 ここからは、メッシ、ロナウド、レブロン、デュラントといった、偉大なプレーヤーに話題を移しましょう。あなたたちはこの何年間か、彼らを間近に見てきました。我々一般人では理解できない、彼らの話を聞かせてください。

カリー

 そうしたスーパースターたちに押されたり、追いかけていったり、という戦いは、本当にヘトヘトになる。彼らが最高と言われる域に達するのがどれほど大変で、どれだけの努力の積み重ねの結果によるものか、わかるだろう。精神的であれ肉体的なものであれ、常に、少しでも相手に対して優位を保てるまで、そこに踏みとどまらせようとする。僕のことで言えば、ルーキーイヤーに初めてレブロンと対戦した試合が思い浮かぶし、そこから2015年、NBAファイナルを争ったときに至るまで、あの偉大なプレーヤーが僕の前に立ちはだかり、僕もああなりたいと思い続けた。レブロンの前では、丸裸にされるし、学び、成長もある。そこでの失敗がさらに大きな成長にもつながる。その結果、僕もトップに立つことができた。思い返せば僕の全キャリアでの取り組みや、初優勝に手が届かなかった7年間、それは長い旅でもあり、毎試合、最高のレベルを披露しなければならないという、とても厳しい旅でもあった、そのことに感謝したいね。君もそうだろう?

ネイマール

 メッシやクリスティアーノ・ロナウド……。メッシとはともに戦った仲だけど、いつだって最高のサッカー選手の1人だし、僕のアイドルなんだ。練習中でも、試合の中でも、ただ見ているだけでも、彼といれば、僕は毎日学ぶことができた。その学びによって、僕は強くなれたしピッチ上で出せる能力も高まった。ロナウドは、怪物だね。彼との対戦は喜びでもあり誇りにも思えるけど、大変な備えが必要だ。頭のフル回転と、最大限の警戒が必要な、偉大な選手であり、同時に多くのことを学べる相手でもある。僕はもっと上手くなりたいし、勝ちたい。トロフィーが欲しいし、まだまだゴールを決めたい。そのために、彼らからいつも多くのことを学んでいる。

もっと学びたいし、勝ちたい。トロフィーが欲しいし、まだまだゴールを決めたい。それを毎日教わることができるという意味で、僕が関わる並み居るスターの中でも、代表的な2人だね

カリー

 それこそが、最高にイカしてるってことだ。自分のレベルを少しでも上げる方法を学べることがね。彼らは君の可能性を引き出してくれる。君がそのレベルに達し、彼らが君に敬意を払い、彼らが君のプレーを認めたとき、君も彼らの最高のプレーを引き出せると感じているんじゃないかな。その繰り返しこそが、僕らがなぜプレーを続けるかの本当の理由だよ。繰り返すけど、そうしたすべての労力には心から敬意を払う。仮に外から見えないところで『ちょっと違うな』と思うようなことがあったとしてもね。そんなときは、自分がどうなりたいのかに誠実に向き合えば、彼らから学ぶべきところを取捨選択できるんだから。

TPT

 もしあなたたちの人生を映画化するとして、必ず入れるべきワンシーンは何ですか? 人生を奥深いものにしてくれた瞬間は。

カリー

 具体的な日は特定できないけど、2012年の夏だったよ。足首の二度目の手術を終えたばかりだった。シャーロットのリビングルームで、僕と妻の2人だけで、いま座っているような椅子に座っていた。僕は彼女にとって思いも寄らない言葉を口にしたんだ。自分を疑い、カムバックできないんじゃないかというような弱気な言葉が、こんな陽気な男の口から出たんだから。僕は本当に楽天家だからね。ただ、先の見えない、二度目の盛夏に、僕の気持ちの本当の強さが試されていたんだね。さっき話したように、スーパースターを追いかけて、ビッグになりたいと思い続けてはいたけど、そのときの足首のように、健康についてだけはコントロールすることができない。でも彼女はこう言ったんだ。「あなたが誰なのか、忘れてるんじゃないの?」。その言葉のおかげで、自分がなすべき事に集中し続けられた。2年か、3年近くかかったけど、僕はコートに戻って優勝を手にすることができたんだ。最もうちひしがれていたところから立ち直ることができた瞬間だ。

ネイマール

 僕は2つある。1つは背中を痛めたときだ。それによって、ワールドカップで優勝するという夢がついえてしまった。何もかも終わったと感じた。自問したよ。ピッチに戻りたいのか? って。そのとき、本当に大切なものがわかったんだ。立ち上がるよう促してくれた家族や友達だよ。それで立ち直れたんだ。

 もう1つは、初めての手術を経験した今年なんだ。2018ワールドカップを間近にして、僕は自分が出場できるとは思えなかった。家族やガールフレンド、友人たちがそばにいてくれた。皆のおかげでもう一度、ワールドカップでプレーするという夢を信じることができた。2つとも、僕のカムバックを信じる家族や友達が必ずいてくれたという、大切な瞬間だ。

カリー

 そうなんだ。彼らは、君が最悪のときにはそばで寄り添い、最高な瞬間や功績をともに分かち合うんだね。それがすべての原動力となったんだよ。家族は、かけがえのないもので、その後押しなしでは目指すところへ到達できなかった。すべての道のりを通じて、そうだったはずだよ。

Sam Robles/The Players' Tribune
Sam Robles/The Players' Tribune

TPT

 最後に私たちを“ロッカールーム”に案内してもらえますか。いつもいる仲間の中で、最高に愉快な人物はだれでしょうか。

カリー

 クレイ・トンプソンだね。自覚があるかどうかわからないけど、面白いんだ。あいつの頭の中は役に立たない雑学の宝庫さ。タホ湖の水量とか……、とにかく幅広い。でも、僕を笑わせてくれたのはその話じゃないんだよ。2年前かな、彼が3クオーターで60点ほど得点したときだった。僕らはいつもクレイがのんびり構えていることをジョークのネタにしていたんだ。練習に遅れるし、試合前のウオーミングアップにもしょっちゅう遅れる始末。そんなある日、彼は試合の前日練習を完全にすっぽかしたんだ。姿が見当たらないし、連絡もつかない、結局やって来ることすらなかった。だから次の日、どんな顔してやってくるのか興味津々だったけど、ヤツは何事もなかったかのように現れて、普段通り試合前は新聞に目を通してるんだ。それからコートに出て、3クオーターで60点さ。練習をサボった次の日にだよ。クレイは何をしでかすかわからないから、そんなちょっとした出来事が笑いの種になるんだ。でも彼はこうやって、いざ試合となればとんでもないプレーをするし、グーグルで検索しないとわからないような知識も披露する。愉快だよ。

 監督に「クレイには、もう練習に来ないで試合だけこい」と伝えた方がいいって冗談で進言したものさ。

ネイマール

 最高に面白い、すごいヤツって言えば、ダニ・アウベスだね。彼が歌ってる動画をネットに上げた話はお気に入りだよ。ロッカールームでは、エネルギッシュで、誰にでもジョークを飛ばしまくって僕らの気持ちを高めてくれる。みんなにニックネームを付けてくれるしね。逸話はいくらでもあるんだけど、彼が歌っているあのインスタグラムの動画は最高だね。笑い転げたし、あれは気に入った。

 彼のニックネームは『クレイジー野郎』なんだ。

カリー

 わっはっは! そんなヤツがいればいいね。長いシーズン中、そんな空気を作ってくれるヤツがロッカールームには欠かせないんだよね。でも、面白いな。

ネイマール

 最年長なのに、いつだって最高さ!

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