ダブネーションに捧げる

Jeff Chiu/AP Photo

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 こんなこともあるさ。

 時として、こういうのは本当にシンプルなんだ。

 僕はバスケットボールを生業にしている。バスケをプレーしていれば、ケガをすることだってある。メンフィスでの(NBAプレーオフ、ウェスタン・カンファレンスセミファイナル)第2戦が行われた夜...ケガをした。起こってしまったことは仕方がないし、不運だった。でも正直なところ、それほど落ち込まなかったんだ。

 あのプレーで起こったことについて、さまざまな論争もあるだろうけれど、僕があの出来事で一番記憶に残っていることは何だと思う?

 与えられたフリースローさ。

 コートに叩きつけられた後、フリースローを打ちたくて仕方がなかった。悲しさ全開ですぐにロッカールームに下がることだけはしたくなかった。せめて、チームのために点を決めるまでは。そのことしか頭になかった。今でもフリースロー1本を外してしまったことが悔やまれる!

 X線検査で肘の骨折が判明して、しばらく試合に出られないことがわかっても、起こってしまったことに腹は立っていなかった。プレーオフの試合に出られないことには苛立っていたけれど、あのファウルについては気にしていなかった。もっと酷いファウルを受けたこともあったからね。怒りの感情も、動揺もなかった。断言しておく。自分とディロン(ブルックス)の間には、何のわだかまりもない。チームが第6戦でシリーズ勝ち上がりを決めた後、彼からロッカールームの外で話をしたいと連絡があった。面と向かった瞬間、彼は僕に謝罪してくれた。メールやソーシャルメディア上でのやり取りのような間接的なやり方を取らなかったディロンに感心した。彼は僕と直接向き合ってくれたんだ。そして僕達は、大人の男として話した。彼はケガをさせるつもりはなかったと言ってくれた。僕は彼の言葉を信じるよ。

 だから僕は怒っていない。世界中の人たちは、僕が腹を立てていると思っていたかもしれないけれどね。あの試合が終わってから電話が鳴り止まなかった。僕が怒り狂っていないか、気落ちしていないかどうか、みんなが気にかけてくれた。それにウォリアーズのみんなも優しくて、自分事のように考えてくれていた。僕の代わりに大勢の人が怒りを表してくれた。とても感謝しているけれど、僕は大丈夫。

 ずっとみんなに伝えようとしたんだけど…僕がどんな人間か知ってるでしょ? たった3〜5週間出られないだけじゃないか。僕はバスケットボール選手として、もっと大変な目に遭ってきたんだ。NBAに定着するために6年も苦労してきたんだ。だから、たった数週間試合に出られないくらいで落ち込んだりしない。

Jeff Chiu/AP Photo

 さっきも言ったけど、こんなこともあるさ。切り替えないといけない。

 起こってしまった結果を考えて時間を無駄にしている暇なんてないし、自分を不幸とも思わない。僕は、あらゆる物事を前向きに考える性格だ。

 ウォリアーズの一員でいられること、それに今シーズン貢献できていることを含めて、何事も当たり前だなんて思っていない。どの瞬間も、大切にしている。自分がどれだけ幸運かも理解している。今シーズンの開幕前に、ヘルニアの手術を受けた。何とか予定通りに復帰して、ロスター枠を勝ち取るため、チームに実力を示したかった。実のところ、プレシーズンゲーム最終戦を目前にしていた頃は、100%の状態ではなかった。それでもやらないといけないと思っていた。その試合で結果を残すか、またイチからやり直しになるかの二択だった。結果を残せなかったらGリーグに戻って、また振り出しからやり直すことになってしまう。

 だからもちろんチャレンジした。そのことを誇りに思っているよ。

 ただ、十分な結果を残せなかったのだと思う。その試合後、GMのボブ・マイヤーズから呼ばれた。彼の表情は暗くて、「残念だが、君を解雇しないといけない」と伝えられた。

 僕はと言うと、そうした類の知らせに関しては麻痺していた。いつだって最悪の事態を想定していたんだ。それが自分を守るための方法だったと言えるかもしれない。NBAに関することには、あまり大きな期待を持たないようにしていた。

 それでも、その時ばかりは何かが違っていた。

 今回は“ザ・ベイ”だ。意味がわかるかな? 簡単に気持ちを切り替えるわけにはいかなかった。だから僕は「そんなもん知るか。たしかにクビになったけど、ここに残って、チームとの練習に参加する」って思った。

 すごいだろ! それが許されるかどうかさえわからなかった。それでもチームに見てもらえる状態を保ちたかった。ここでプレーしたい気持ちを知ってもらいたかった。ボブから解雇を伝えられた後、「その、なんというか...明日も来ても良いかな? チームと一緒に練習して、それで…その辺にいても良いかな?」と、彼に尋ねた。

 今思うと、とんでもない話で笑っちゃうね。彼もそんなことを言われるなんて思ってもいなかっただろうさ。けれど、彼は了承してくれたんだ。

 神様のおかげだ。

 ボブからは、チームと練習しても構わないと言われた。当時、代理人に「ウェーバー期間を終えて他のチームから連絡があっても、ウォリアーズとの再契約を最優先すると伝えてもらいたい」と言った覚えがある。当時はそれしか考えていなかったし、どういうわけかチームに戻れると思っていた。

 そして、それから数日経って、チームから連絡をもらってミーティングルームに呼ばれた。「GP――実力を見せてもらった。チームに加わってもらう。ロスター枠を勝ち取ったんだ」という話だった。

 あの瞬間は生涯忘れない。それくらい嬉しかった。

Noah Graham/NBAE via Getty Images

 チームに合流した初日から何よりも心がけていたのは、とにかく食らいつくこと。それが自分のモットーだった。それができれば、いつかローテーションにも加われると確信していたから。必ずインパクトを残すと心に決めていた。

 最初は、チームが実力を確かめたい選手を何人か連れてきて、僕が相手をした。ディフェンスに人生がかかっているような気持ちだったよ。その時は、「悪いな。残念。俺のスポットは奪えやしない。君のチャンスはまたの機会だ」という感じだった。一日中ピッタリ張り付いてディフェンスして、相手に自分の力をわからせた。自分の居場所を譲るつもりなんて毛頭なかった。

 僕はいつも練習場にいた。ピックアップゲームをやったりして、マッチアップする相手をボコボコにし続けた。蹴散らしたよ。ただただ圧倒した。手加減は一切しなかった。 そんな日々を過ごして、毎日のように「ステフをガードする。ステフとやらせてくれ。30番、来いよ」という具合だった。本当に連日そんな感じだった。1)ジムに着いて、2)ステフをガードする。それが自分の仕事だったし、考えるまでもなかった。史上最高の選手の一人である彼とのマッチアップでは、僕が負ける時もあった。それでも、絶対に簡単に抜かせなかった。他の選手をガードする時と同じように、彼に張り付いた。手を使って、強く押して、イライラさせる。僕が勝つこともあった。お互いに同じくらい勝ったり負けたりしたかな。

 ステフにはいつも冗談でこう言っていた。「今後、俺に違うチームのユニフォームを着させて、あんたの前に立ちはだかるようにはさせないでくれよ。それだけはさせないでくれよ」とね。彼は笑って、冗談に付き合ってくれた。練習場でボブ・マイヤーズの顔を見ると、ステフは「コイツをよそにやって、試合で当たるのだけは勘弁してくれよ。頼むよ、ボブ」と言っていた。ステフがそんなことを言ってくれて、どういう気持ちになるかって? 最高だよ。

 それは、ウォリアーズの一員としての自分に課した、食らいついて、インパクトを残すことを実行できているも同然だった。

Noah Graham/NBAE via Getty Images

 同じことを今シーズンのプレーオフでもやりたい。またチームメートと一緒にプレーしたくて仕方がない。ステフ、ドレイ(ドレイモンド・グリーン)、クレイ(・トンプソン)、ルーン(ケボン・ルーニー)、JP(ジョーダン・プール)、ウィグス(アンドリュー・ウィギンズ)、アンドレ(・イグダーラ)...みんなと。このチームの一員でいられることに感謝している。復帰するために全力を尽くすことを約束するよ。

 この手記を締めくくる前に、最後に伝えたいことがある。ダブネーション(ウォリアーズファンの愛称)に心から感謝の気持ちを伝えないといけない。

 僕は、ザ・ベイを本当に愛しているけど、この気持ちは、みんなに伝わらないかもしれない。以前、ここには毎年夏に父と来ていた。父のオフシーズンになると、家族揃ってオークランドで過ごしていた。良い思い出ばかりだし、たくさんの人と知り合いになった。そんな土地に、NBA選手として戻ってきた。そして、このグループの一員として、最高のシーズンを送れているなんて、現実とは思えないくらいだ。

 昔と同じように愛情をもって接してくれるみんなにお礼を言いたい。このコミュニティに受け入れてもらって感謝している。それに、ディフェンスで相手を抑えて、潰して、チームが勝つためにどんなプレーでもする自分のスタイルを高く評価してもらえて、感謝している。本当にダブネーションのおかげだ。ファンのみんなも、自分が何を大切にしているかわかってくれている。これは特別な絆だよ。

 これを読んでくれてありがとう。ここ数週間は慌ただしかったし、今シーズンもクレイジーだったから、自分の言葉で伝えたいことがあった。今は、チームの優勝に貢献することしか考えていない。もし優勝できたら、チーム一丸となって成し遂げた成果。全員でやり遂げることだ。そして、正直に言うと......本当にいい予感がするんだ。

 ザ・ベイに戻ると、いつだって幸せな気持ちになれる。

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